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降っても晴れても

好きな本や映画についてごにょごにょ書きます

欲情を求めてー官能小説とハーレクイン (1)

現実逃避が加速している。

去年ぐらいから官能小説を読み始め、最近はもっぱらハーレクインロマンスを読んでいる。

これが面白いんだから、どうしようもない。

どうしてこんなマイブームが到来してしまったのか、ちょっと好きな小説を紹介しつつ、ここ1年ぐらいの読書遍歴を整理しながら考えてみたい。

 

まず、官能小説に至るまでの読書遍歴を。 

 

この流れは、去年の夏に桜木紫乃を読み始めたのがきっかけだった。

飛行機で読もうと思い、成田の本屋さんで桜木の ラブレス (新潮文庫) と桜庭一樹の 私の男 (文春文庫) を表紙買いした。

 

これが想像以上に面白く、以来桜木のファンになった。(桜庭もちょっと読んだ)

 

桜木は、別に官能小説家というわけではない。

新官能派とは言われているものの、彼女の作品の男女の性というものは、基本的に渇いていて、身体はつながっていても、心はバラバラみたいなのが多い。

これはセックスだけど、ぜんぜんエロくない。

 

好きな話はたくさんあるのだが、ここでは一番グッときたセリフを引用しておく。

短編集 氷平線 (文春文庫) に収録されている「霧繭」、主人公に恋敵の女がこう投げかける箇所がある。

 

「真紀さん、いい女ってのは一生かかっても主役にはなれないのよ。主役はいつだって愚かな女なの。覚えておいてね」(79)

 

これだけでわたしはグッときちゃうのだが、桜木は「愚かな女」を描くのが、本当にうまい。

この点では、 直木賞を取った ホテルローヤル (集英社文庫) よりも『星々たち』がオススメ。

星々たち

 

好きになったら、その作家の作品を手に入るだけ全部読むことにしている関係で、桜木の作品を漁っているうちに、行き着いたのが性愛小説アンソロジーの『果てる』だ。

 

果てる 性愛小説アンソロジー (実業之日本社文庫)

 

これで衝撃を受けたのが、宮木あや子だった。

ちょうどこの頃、彼女の 花宵道中 (新潮文庫) が安達祐実主演で映画化されていたため、それも含めていろいろ読んだが、この人はすごい。

どエロいものから、アラサー女子の悲哀、10代の少女の地獄みたいな生活みたいなものまで幅広く書ける。

その中でも個人的に一番面白かったのは、『野良女』だった。

 

野良女 (光文社文庫)

 

セックスにも恋愛にも10代の頃ほどキラキラできないけれど、彼女たちの中では、恋愛と結婚が完全にイコールで結びついてしまっていて、どうにもこうにも身動きが取れない!しあわせがこわい!しかし、このままでもこわい!というお話。

タラレバ娘が話題になっているが、個人的にはこちらに共感してしまう。

会話が非常にうまく、アラサー女子たちの女子会を隣の席から聞いてしまったような気分になる。

「野良女」というぐらいなので、お酒飲みながら、ガハハハハ!と笑っている雰囲気があるのだが、これとは対照的に同じ女子会でも柚木麻子が書くとお上品になる。

 

何故か柚木麻子の代表作? である ランチのアッコちゃん (双葉文庫) と ナイルパーチの女子会 が未読だが、彼女の作品は、基本的に女子校ものとオトナ女子ものに分かれるのではないかと思う。

オトナ女子ものになると、(私は女子会小説と呼んでいるのだが)オムニバス形式で話が進み、最後に最近どうですか?という女子会が開かれる。

あまからカルテット (文春文庫)嘆きの美女 (朝日文庫)がこれに当てはまると思う。

同じ女子会でも、こちらは割とお上品で、うふふふ♡という笑い声が聞こえてきそうだ。

早稲女、女、男 (祥伝社文庫)  は、早稲田、慶応、立教、日本女子、青学、学習院とそれぞれの大学に通っている女子大生が出てくる。東京の私大生を描いているせいなのか何なのか、いくら粗雑にしようとしても、やっぱりお上品さがある。

 

ちなみに、個人的には、柚木は女子校ものの方が好きだ。

彼女のデビュー作である『終点のあの子』は、女の子同士の「大嫌いで大好き」が痛々しいほど瑞々しいトーンで描かれている。

終点のあの子 (文春文庫)

 

ついでに、宮木あや子は色々書くと述べたが、彼女も女子校ものの 雨の塔 (集英社文庫)も書いている。

正確には、もはや大学としての機能を果たしていない女子大が舞台になっているが、この作品もむせかえるような女同士のアンビバンスな関係がこれでもかと描かれていて面白かった。

 

ちなみに、ちょうどこの頃、アニメ『ユリ熊嵐』がやっていた関係もあり、「女子校もの」を好んで読んでいた。

 

友人に勧められて面白かったのは、米澤穂信儚い羊たちの祝宴 (新潮文庫)

これも厳密には女子校が舞台なわけではなく、かつて女子校で同じ読書クラブに所属していた女性たちがそれぞれ主人公になっているオムニバス小説だ。

女性の一人称で語れる、ホモエロティックな関係がすごくよかった。

 

ところで、昨今は長年絶版になっていた 新装版 レズビアン短編小説集: 女たちの時間 (平凡社ライブラリー) が重版されるなど、「百合」がブームになりつつあるが*1、以前から日本人作家で女の同性愛を描く人はいないのだろうかと探していたところ、フォロイーさんに中山可穂を教えてもらった。*2

 

彼女の小説もとても色っぽく、そして面白い。

特に能*3を下敷きにした短編集が一番のお気に入り。

弱法師(よろぼし) (文春文庫)

 

彼女の小説は必ずと言ってほど、セックスが描かれる。

この短編集は、中山自らをそれを封じて書いたものだ。肉体的な繋がりが脆弱な分、必死に精神的に結びつこうとする関係が、読んでいて胸がいっぱいになる。

 

と、ここまでは趣味で読んでいた作品だったが、勉強のためにこの辺りでフィリッパ・グレゴリーの『ブーリン家の姉妹』も読んでいた。

ブーリン家の姉妹〈上〉 (集英社文庫)

(正確には、歴史小説 ウルフ・ホール (上)を読んでいたため、同じ時代と人物を扱ったこの作品に興味があった。) 

ヘンリー8世の二番目の妻であるアン・ブーリンと彼女の姉妹であるメアリーの物語だが、とりあえずとてもセクシーなので驚いた。

途中、「お臍を噛む」という表現が出て来たので、小学生のようにドギマギしてしまった。正直、この意味が今だにわからない。その他にも「髪の毛」を使って男を喜ばせるなんて部分もあり、ますます謎は深まるばかりだ。誤訳なのだろうか。それとも、“そうゆうもの” なのだろうか。

 

とにかく、このアンもメアリーも男性に対するはっきりした欲望を持ち、男性を目の前に欲情を示している。

この「欲情する女」の姿にとても心惹かれた。

 

欲望される客体*4ではなく、欲情する主体としての女性の姿というもののは、やはり海外の小説の方がはっきりと描かれているのではないかと思う。

 

この前記事を書いた アレクシア女史、倫敦で吸血鬼と戦う (英国パラソル奇譚)のアレクシアもマコン卿にガツガツ行く。今度はわたしのターン!とばかりのガツガツ具合。

 

続編の 愛憎の王冠〈上〉―ブーリン家の姉妹〈2〉 (集英社文庫) をぼちぼち読みながら、女性の欲望をいかに描くのかという点を考えている間に、わたしはふと思った。

 

「そういえば、官能小説って読んだことなかったな!」

 

まず何から読もうかというところなんだが、それはまた改めて書くことにする。

 

続く。

*1:「レズビアニズム」と<百合>を混同するのは、個人的にはどうかと思うが、出版社の宣伝の仕方を見ていると、この短編集を重版することで <百合>ブームに乗っかろうとているのだろうなと思う。

*2:ここでは触れないが、海外の作家では、サラ・ウォーターズ、アリ・スミス、ジャネット・ウィンターソンあたりを好んで読んでいる。サラ・ウォーターズは『荊の城』と『半身』、アリ・スミスは『ホテル・ワールド』、ウィンターソンであれば『灯台守の話』が好き。

*3:三島由紀夫の『近代能楽集』に収録さている作品を多く扱っている。こちらは残念ながら、未読。

*4:この性的に客体化され、暴力的に身体を搾取されるを恐怖をこれでもかと書いたのが宮木あや子の 春狂い (幻冬舎文庫) だと思う。やっぱり彼女はすごい。